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zoom RSS スターリン時代を生きた哲学者の回想録より

<<   作成日時 : 2009/10/20 04:00   >>

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 このブログにも時折コメントを頂いている同志ひら氏(歴史家)が、読んでいる史料の内容紹介をMixi日記でなさっている。これに触発されたこともあり、私も当ブログにて同様のことをちっとしてみようかと思う。ただし、ひら氏がユーモアあふれる紹介を行っているのに対して、今日私が紹介する箇所はユーモア抜きの重苦しいものである。あしからず、ご了承を。

 紹介するのはソ連の哲学者デボーリンの回想録である。といっても誰それ? という人がほとんどだろうから、簡単に略歴を記しておくと

デボーリン、アー・エム(А. М. Деборин, 1881-1963):ソ連の哲学者。10代から社会民主主義運動にかかわり、レーニンの信を得、10月革命以降に設立された各種の「赤色の」教育研究機関においてマルクス主義哲学の教育・研究に携わった。1920年代には弁証法的唯物論に関する多数の理論書・啓蒙書あり、またソ連哲学界を代表する第一人者として大きな権威を獲得した。1929年アカデミー会員。しかし1930年、ソ連全般を襲ったスターリン主義的転換の中で若い世代の哲学者からその哲学的立場をはげしく非難され、以後事実上ソ連での著作の公刊を禁じられた。

 というところ。今日扱うのは、その彼が最晩年(1961年)に書いたものの、その内容が「不適切」と判断されたためか今年(2009年)まで刊行されなかったといういわくつきのものである。(Воспоминания академика А. М. Дебориа //Вопросы философии. 2009. 2. С. 113-133.)
 
 スターリン時代において政治的に敗北したものは、常に肉体的破滅の予感と直面しなければならなかった。デボーリンは幸いにして粛清の時期を生き延びたが、「招かざる客の来訪にたいして常に準備しつつ、私は22年間を生きた」と回想しており、ほとんどノイローゼ状態だったという(С. 126. 「招かざる客」とは無論、政治警察のこと。「22年間」というのは、デボーリンが失脚した1931年からスターリンが死ぬ1953年まで、という意味だろう)。彼の多くの仲間が逮捕され、命を失った。彼自身、著作を刊行できなくなり、かつての著書は忘れられようとしている。
 そんな彼が次のように書いている。この箇所は多分今後私の論文の中では引用されることはなかろうが、せっかくなのでここに抜き書きして公開することにする(訳が見苦しい点はご容赦を)。

歴史は、その中に人間の認識が地表に何らの跡も残さず投げ込まれていく、そのような底なしの深淵ではない。もちろん、そのようなことはあったし、おそらくはたくさんあっただろう。しかしわれわれの時代はかつてとは大きく異なっている。十月革命は、労働そのものとともに、勤労する人間を達しがたいほどの高みに引きあげた。彼はもはや単に植物的な生を生きているのではなく、社会の成員であり、社会のために生きるようになった。それがゆえに、社会全体の福利という名のもとに労働した場所であるところの地表から、彼が単に去るのみ、ということがあってはならないのである。(С. 124)


 そしてデボーリンは、淡々と、もはやこの世におらず歴史からも消されようとしているかつての自身の盟友たちについて語っている。
 私は共産主義者でも十月革命の全面的な支持者でもないが、この箇所には結構感動した。歴史学に携わる人間として、戦慄にも似たような感覚をおぼえた。

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コメント(2件)

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おお、同志kanay氏も史料紹介とは・・・

予告通り重苦しい内容だけど、スターリン時代の史料なんてのは、やっぱり「お笑い」系はなかなか無いものなのかね・・・?
ひら
2009/10/20 09:19
「ひきつった笑い」系の話なら時々ありますけどね。
夜中に、「警察だ」との声が玄関でするので家族一同が真っ青になったところ、飼い犬の登録に関する件だった、ほっとした、とか。あまり笑えないか。
金山浩司
2009/10/21 03:40

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