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zoom RSS ニュートリノよ! またお前か!

<<   作成日時 : 2011/09/24 23:17   >>

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 CERNの研究者がニュートリノを飛ばしてみたところ、光の速度を(ほんの少しばかりだが)上回るそれで目的地に到着してしまった、と、大騒ぎになっている。確かに、これが普遍的に妥当する結果だとすれば、特殊相対性理論の帰結―光速度では物体の質量は無限大になって加速はできないはず―とは矛盾する。驚きの結果だ。
 何かが間違っているのは確かだが、修正されるべきなのはどこなのか、今の時点ではよくわからない。特殊相対性理論そのものなのか、時間・空間に関する我々の観念そのものなのか、あるいは単なる測定器の不備か距離や時間のはかり間違いなのか、あるいは加速や実験条件に関して何かのからくりがあるのか、あるいはニュートリノという物質に関して従来の物理理論の範囲で説明できるような特殊性でもあるのか。
 専門家の判定を待つしかないのだが、ここで思い出すのは、1920-30年代にボーアのおかげでそれなりの騒ぎになった、エネルギー保存則がミクロ世界で破れているのではという仮説だ。この騒動は、原子核から電子が飛び出してくるいわゆるベータ崩壊の過程の前後でエネルギー保存則が破れているように見えた不思議さを、解き明かそうとする過程で起きた。詳しくは私が5年前に書いた論文(注)を参照していただくとして(笑)、エネルギー保存則といえば、光速度が速度の上限であるというのと同様の、いな、ひょっとするとそれ以上の、確実性を持っているかもしれない、物理学の基本法則である(ちなみに、当然のように思われているが未だ経験的には確証されたことがあるわけではない―というより、経験的に確証されるような類の法則ではない―、という点でも、この二つの決まり事には共通点があるように思える)。それが破れているように見え、あの物理学界の大御所ボーアが、ミクロ世界ではエネルギー保存則は敗れているのかもしれない、と言い出したのだから、学会は数年間騒然となった。結局、フェルミによるベータ崩壊の理論的説明が登場してこれが受け入れられる中で、ボーアの思いつきも鳴りをひそめて行ったわけだが。
 つまり、この1920-30年代の話では、従来から正しいと考えられていた物理法則(というか、公準)が正しいことが認められたわけだ。現在に至るまで実際、エネルギー保存則は基本的に正しいものとして認められており、物理理論はこれに矛盾しない形で構成されているはずである。では今回はどうか。100年にわたって正しいと思われてきた特殊相対性理論にもいよいよ修正が加えられるべき時が来たのか。それとも80年前と同じく、単なる騒動で終わり、微修正を加えるだけで済むのか。
 ちなみに、この80年前の騒動で加えられた微修正(「微」というのはちょっと失礼かもしれない、貴重な第一歩だったのだが)の一部は、いみじくも、パウリが提唱しフェルミが採用したニュートリノ仮説であった(ニュートリノのような未発見の粒子を仮定すれば、ベータ崩壊の前後でエネルギー保存則が破れていると考えなくともすむ)。ニュートリノは、その後、ご存じわれらがカミオカンデによる観測により、その存在は確証された。何やら因縁を感じますな。

 現代物理学には、もともと、大きな、説明のつかない謎がある。宇宙に大量にあるように見えるダークマターやダークエネルギーはその一例だろう。これらは、かっこいい名前で呼ばれているが、まあ要するに理論と観測とのどうしようもない矛盾・気持ち悪さが表現されているわけである。今回の実験は、ひょっとするとこうした矛盾・気持ち悪さをさらに助長するものかもしれない。しかし、そこからこそ、我々のこの世界に関する把握の新たな進歩、爆発的かもしれない進歩も、生まれてくるのだろう。ちょうど百年前、どうにも解決のつかない謎が、量子力学と相対性理論の出現を促す大きな要因となったように。
 基礎物理学というのはここ数十年、科学的話題の中ではほかの華々しい領域―特に生物学の―に隠れて存在感が薄かったが、今回の奇妙な結果をきっかけに、また新たな革命・飛躍的発展がこの領域で起こるかもしれず、我々はそれを目撃する幸運に、ひょっとすると恵まれるのかもしれない。まあ、予断は許されませんが(笑)

(注)金山浩司「エネルギー保存則は保存される―1930年代半ばにソ連において行われた哲学論争の再考」『哲学・科学史論叢』(東京大学教養学部 哲学・科学史部会)9号(2007年1月)、65-89頁。

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内 容 ニックネーム/日時
完全文系の私でも「何やら面白そう。ワクワク」と感じることができる文章でした(あくまでも「感じる」程度だけど^^)。ありがとう。
ひら(Cl)
2011/09/25 19:47

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