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zoom RSS 仕事再開、あるいはわが国の知的風土の一側面について若干

<<   作成日時 : 2009/04/05 23:50   >>

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 2日夕刻にモスクワに帰ってきたのだが、

 3日は滞在登録のため某大学へ出向。ついでに銀行にも出向。用事はすべてつつがなく済んだ。おかげで安堵してしまい、勉強はしなかった(ように記憶している。ひょっとするとしたかもしれないが)。
 雨だか雪だかが降っていた日だった。モスクワであれだけ降るのは珍しい。

 4日(昨日)に仕事再開。D論のうち、セルゲイ・ヴァヴィーロフ(1891−1951)の論文「物質理念の発展」を扱った箇所を書く。これはなにせ以前(4年前)全訳したものなので、内容は熟知しているし、自分のその訳も手元にあるので、普段書くときに行っている露語史料からの訳出の手間が省け、仕事がはかどる。この日は私にしては多めの、原稿用紙7枚ほどを書くことができた。
 ちなみに、私はさほど遅筆というわけでもないと思う。一日に書ける量はわずかだが、いったん書いた文章を大幅に修正する、ということがあまりない(このブログもそうだ)ので。
 このヴァヴィーロフの論考、なかなか今読んでも魅力的である(私の日本語訳はともかく)。原子論の歴史等が扱われているのだが―原子論の出現は、自然界に共存している恒常性と不変性との矛盾を止揚するためのものだった、とか、この論が出た後、連続的なるものと不連続なるものとの共存・矛盾という問題が新たに出現し、その解決が迫られた、というような根源的かつ明快な―正しいかどうかはともかく―解説は、ほかにお目にかかったことがない。ヴァヴィーロフという物理学者が、物理学・科学史の知識はもとより、哲学的センス―これは現在でもそうだが、いわゆる「頭のよい人」にも常に備わっているとは限らない―も備えていた当代第一級の知識人であったことをうかがわせる。
 スターリン時代という、野蛮と光明が奇妙に同居していた時代の、「光」の部分を表している人物、としてこのヴァヴィーロフという人は捉えられるかもしれない。彼の生涯がもつ悲劇性も、かの時代が持つ激しい矛盾を反映・象徴している、といったら、あまりにも文学的・感傷的に過ぎるであろうか。
 原文は20ページ弱で、訳出し出版にこぎつけるまでには相当苦労した記憶がある。で、今に至るまで見事なほど、この仕事に対する反応はない(ただ一人、抜き刷りを渡したヘーゲル哲学専攻の尊敬すべき先輩がほめてくださったことがあるが)。もともと公開を目的とはしていなかった仕事―たまたま、指導教員の先生の後押しがあったので刊行することにした―ではあるが、ちょっと寂しくなくもない。
 この黙殺の理由には、私自身の言語能力や宣伝不足、発表した媒体のマイナーさ、単なるタイミングの悪さ、などももちろんあるのだろうが、わが国の知的世界の傾向が良くも悪くもきわめてプラグマティズム志向であるということも大いにあずかっているかもしれない。わが国では、科学と技術、科学と大衆社会等のテーマは受けるが、科学と哲学との接点を探り、考察を加えようとする風潮が一般にひどく希薄である―少なくとも現在は―ように思える。そうした知的風土の中では、私の今やっているような研究を続けるのは、かなりの孤独感を味わさせられることでもある。まあ、自分ぐらいしか今あるこのような風潮に一石を投じ、変えていけるような人間はいないのだから、がんばろう、というようにでも考えるしかないか。

 5日(今日)は、引き続きD論のうち、去年訳してみた―まだ公開はしていない―ソ連共産党の哲学者コーリマン(1892−1979)の論考「いわゆる『宇宙の熱的死』について」を扱った部分を書いている。上述のヴァヴィーロフ論文がなかなかの傑作、といえるものだとすれば、こちらは問題作。でも面白い。面白いが、なにせ問題作なので、どういう歴史的評価を与えるべきか、悩ましい(で、筆が進まず、ブログ更新に逃げているわけだ)。
 ところで、日本に科学史家・科学論者はあまたいるが、彼ら・彼女らのうち「宇宙の熱的死」と聞いて、即座に、あああのことか、とわかる人がどれぐらいいるのだろう。別に嫌味を言いたいわけではなく、純粋に興味がある。

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