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zoom RSS 都市に込められた歴史性―ロシアの二大都市で過ごしてみて

<<   作成日時 : 2010/09/28 05:22   >>

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 今月は、ロシアを初めて訪れる日本人若手研究者の何人かに対して、モスクワを案内して差し上げる機会があった。まだ新鮮な視点をもっている外国人がこの国のどこに引っ掛かりを覚え、どこから強い印象を受けるのかが思い起こされた。そういう意味で、もはやすれっからしとなってしまったかもしれない私にとっても、彼らとは少し別の意味で、これはなかなか新鮮な体験であった。
 彼らからはいろいろ面白いコメントが聞けたが、かも氏―このブログのコメント欄でも時々登場している―のコメントはとりわけ興味深いものであった。かも氏が現在在住しているドイツ西部のボーフムという街は、まだ来歴が新しいこともあって(また地方の小都市であることもあって)、その街が背負ってきた歴史を感じさせる建物等の文化的遺産に乏しい。それに対し、モスクワにはそういった遺産がふんだんに集中してみられる。この集中ぶりは後発帝国主義国の特色なのではないか、と(私の理解したうえでは、ということです。かも氏がこの通りのことを言ったかどうかは定かではありません…)。
 確かに、言われてみれば、―後発帝国主義国云々はともかくとして―モスクワという街は中心部を散歩するだけで、由緒・いわれある(あるいはよくわからないままにもいかにもそういったものを背負っていそうな)建物に、数十メートル歩くごとに行きあたることができる。これが、私が今一時滞在しているペテルブルクとなるとさらに極端で、この北の都の目抜き通り(ネフスキー大通り)ときたら、19世紀から基本的な街並みや建物の構造は全く変わっておらず、街全体も革命前ロシアの景観を保存する巨大な建築博物館のようになっている。まあ、こうした整然たる風景が形作られたのはおそらく、ロシアが伝統的に中央集権的な政治体制を採ってきたことと無関係ではないが、そのことの善しあしは措くとして風景だけを見るなら、とにかく圧巻である。
 こういった街に暮らしていると、何もここで生まれたわけでもなければここに特に愛着を覚えているわけではなくとも、この地において数百年にわたる人間の創造的建設の努力があったこと、一つ一つの建物に明確な個人の(あるいは集団的な)意思が集約され具現化されていること、その遺産が今でも利用されていること、を否が応でも意識させられる。ここで生まれ育った者、あるいはここに興味を抱いて移り住んできた者であればなおさら、この意識は強まるであろう。人によっては街の歴史に対する大いなる興味が、あるいはそうした歴史を世代を超えて伝えていきたいという強い欲求が、呼び起こされるであろう。実際、モスクワとサンクト・ペテルブルクの本屋には、両都市の来歴を詳しく図入り・写真入りで解説した本が、それこそ何十種類も置かれている。そしてそれらのほとんどはロシア語で、すなわち外国人観光客向けではなくロシア人に(もっと言うならその土地に住む人々に)向けて、書かれたものである。
 翻って我が国の都市と文化は…と言えば慧眼なる読者にはあとの展開があからさまに見えるであろうし、言うだけ野暮な気もするので、これ以上多言は費やさないことにする。ただ一言だけ贅言するならば、国の代表的な諸都市に次々と新しいものを導入することに熱心なことと、自国の(あるいは他国の)歴史を顧みず、過去に立ち返って現在の指針を求める(あるいは他国を理解しようとする)姿勢に乏しいこととは、―どちらが鶏か卵かというのではなく―おそらく表裏一体の関係にあるのではないか。無意味な仮定ではあるが、我が国がもし、近代以降、代表的諸都市において集権的体制のもとで都市計画を綿密に立てたうえで建造物に対する頑固な保護を行っていたならば、いま「歴史コミュニケーション」に対して歴史家が割くべき負担はかなり軽減されていたかもしれない。
 ロシアに、というより西洋という「歴史臭い」―永井荷風が確かどこかでこの表現を使っていたような―場所に、そしてとりわけモスクワのような街に、身を置いていると、私自身歴史家のはしくれのつもりでもあることもあり、ついこのようなことを考えてしまう。上述したことは私が言いだしたことでもなければ、私自身、昨日今日に気付いたことでもないが、今回、観光案内などを試みる際にふと改めて思ったので、書きとめておくことにした。

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